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作品情報

これは、様々な証言や取材映像、ニュース・フィルム、戦意高揚映画のフッテージなどを駆使して“ベトナム戦争”の実像に迫り、第47回(1975)年アカデミー賞最優秀長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した、ドキュメンタリー映画史上最高傑作の1本である。


インドシナ戦争後の南北分断に端を発する戦争勃発の原因、アメリカの政治家や官僚たちのエゴイスティックな大義と、1000年以上に渡って他国の侵略を受けてきたベトナム人たちの怒り、最前線から帰還した兵士たちの生々しい証言、村を焼かれ、子供を殺されたベトナムの人々の叫び…。なぜ、アメリカはベトナムと戦うことになったのか? そして、彼らはそこで何をしたのか? そこでの行為はどんな結果を生み、どんな影響を及ぼしたのか? 映画はアメリカ、ベトナム、大統領から庶民まで、賛成派、反対派、戦争を体験したあらゆる層の人々の証言を積み重ね、無意味な戦争の真実を浮かび上がらせていく。

また本作は、「地獄の黙示録」や「ディア・ハンター」、「プラトーン」など、70年代後半以降に数多く製作されたハリウッドのベトナム戦争映画の傑作群にも多大な影響を与えた、映画史的にも重要な作品である。

監督はNBC、ABC、CBSといったテレビ局で数々のドキュメンタリー番組を製作してきたピーター・デイヴィス。製作にあたっては、キリスト教会の国家評議会に勤めながらベトナムに2年在住したブレノン・ジョーンズと、ニューヨーク・タイムズやタイム・マガジンで働き6年間ベトナムで暮していたトーマス・C・フォックスをコンサルタントに迎えた。撮影を担当しているのは、『ウッドストック/愛と平和と音楽の三日間』(70)のカメラマンでもあり、その後、監督となり『カントリー』(84)、『ノー・マーシイ/非情の愛』(86)、『ロード・トゥ・メンフィス』(03)などを撮ることになるリチャード・ピアース。編集は本作の直後、75年に『カッコーの巣の上で』でアカデミー賞最優秀編集賞を受賞したのをはじめ、『リバー・ランズ・スルー・イット』(92)、『アウトブレイク』(95)などの大作、話題作を数多く手掛けるリンジー・クリングマンとスーザン・マーティン。製作は、『イージーライダー』(69)、『ファイブ・イージー・ピーセス』(70)、『ラスト・ショー』(71)、『天国の日々』(78)など、映画史に残る伝説的な傑作を数多く手掛けた名プロデューサー、バート・シュナイダーである。
製作期間は1972年から2年間。製作費100万ドル(当時)をかけ、150時間分ものフィルムを使用した。

本作は74年のカンヌ国際映画祭批評家週間でワールドプレミアが行われ、大絶賛されたものの、当初、配給を行うはずだった会社が政治的報復を恐れて配給を降り、年末になってようやくワーナー・ブラザースによる配給が決まり、12月20日にロサンゼルス、ウエストウッドのUAシネマで特別上映された。だが、その後、ジョンソン元大統領の政策補佐官ウォルト・ロストウが自分の出演シーンの削除と、上映差し止め要求を裁判所に提出するなど、上映を妨害する行為が相次いだ。製作サイドは再編集を拒否して裁判が行われ、翌年1月22日に最高裁が一般公開を認め、1月30日に一般公開が開始された。
1975年4月5日、アカデミー賞授賞式では、プロデューサーのバート・シュナイダーが受賞のあいさつでベトナム戦争とアメリカの良心について語り始めた時、司会を務めていたハリウッド最右翼のタカ派フランク・シナトラが「アカデミー賞に政治を持ち込むな」と抗議したが、それに対してシャーリー・マクレーンが「映画は真実を見つめて平和に貢献しなければならない」と反論し、満場の喝采を浴びた。

全米では、2001年9月11日の同時多発テロとその後のアメリカのアフガニスタンへの侵攻などを受け、本作の再評価の動きが活発化。2002年6月25日にデジタル修復版マスターを使用したクライテリオン・コレクション版DVDが発売されてベストセラーを記録。2009年2月13日には全米劇場でのリバイバル上映が開始された。

 日本では全米初公開当時は劇場公開が見送られ、1975年9月5日にNET(現テレビ朝日)が夜の11時15分からテレビ放映し大反響を巻き起こした。1987年12月16日には、HRSフナイよりVHS版ビデオが発売されたが既に廃盤。その後、2010年6月19日から行われた“ベトナム戦争勃発から50年 映画で見る戦争(ベトナム)の真実”と題された東京都写真美術館ホールでの企画上映において初の劇場公開が行われた。
上映用のマスターは映画科学アカデミー所蔵の35ミリ・フィルムから作成されたハイビジョン・マスターを使用したノーカット無修正完全版。2010年の公開はDVD上映だったが、今回は初のハイビジョン素材(BD)での上映となる。

本作の題名となっている“ハーツ・アンド・マインズ”という言葉は、ジョンソン大統領が行なった演説での「(ベトナムでの)最終的な勝利は、実際に向こうで暮らしているベトナム人の意欲と気質(ハ-ツ・アンド・マインズ)にかかっているだろう」という言葉から取られている。

コメント

石川文洋(報道カメラマン)

ベトナム戦争は第二次世界大戦後、最大の戦争となりました。 私はこの映画でベトナムの民間人、アメリカ兵たちの驚くべき証言と 映像から、あらためて戦争の実態を知らされました。戦争の悲劇を 防ぐためにもぜひこの映画を見て頂きたいと思っています。

川本三郎(評論家)

1975年に日本のテレビでも放映された『ハーツ・アンド・マインズ』の衝撃は忘れられない。 自分たちの国はなぜあの汚れた戦争を始めてしまったのか。 根底から真剣に問いかける姿勢に感動する。

想田和弘(映画作家)

製作から40年経っても色褪せるどころか、批評性を増している傑作。 「戦争」と言われても実感が持てない私たちが、 今こそ観るべき映画である。

安田菜津紀(フォトジャーナリスト)

世代を超え、国境を超え、見つめるべき“過去”がここにある。今、この映像をバトンとして受け取り、さびない記憶として刻みたい。

マイケル・ムーア(映画監督)

『ハーツ・アンド・マインズ』は私がこれまでに見た最高のドキュメンタリーであるだけでなく、これまでに製作された最高の映画だ! 私が映画を作ろうとカメラを手にしたのは、今もまったく色あせることなく意義ある作品であり続けるこの映画を見たからだ。